気分障害とうつ病

医師の主観的な判断によるものが多かった精神障害の判断について、診断基準を明確にしたものがDSM-IV-TRです。

DSM-IV-TRとは

Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disordersの略。
日本語訳では「精神障害の診断と統計の手引き」のこと。

以前の診断基準「DSM-IV」ではうつ病と双極性障害が「気分障害」の中に含まれていましたが、最新の「DSM-5」ではうつ病と双極性障害は別のカテゴリーになりました。

それに伴い「気分障害」という項目はなくなりましたが、この記事では従来の「気分障害」という言葉を用いながら、おもに「うつ病」について解説していきたいと思います。

目次

うつ病と双極性障害の違い

大きなカテゴリーとして、気分が高まったり憂鬱になったりを繰り返す気分変動が持続的に続く状態を「気分障害」と呼ばれていました。

「うつ病」と「双極性障害」は非常に似ていますが、症状や気分の変動の程度が異なります。
主に抑うつ気分や興味喪失が現れ、人の活動や日常生活に支障をきたします。

双極性障害では、うつ状態と躁状態(または軽躁状態)が交互に現れます。
躁状態では、興奮や多弁、行動の増加などが見られ、うつ病と比べて気分の変動が激しいのが特徴です。

気分障害の症状

気分障害の「うつ病」「躁うつ病」「抑うつ神経症」について詳しく見ていきましょう。

うつ病

大うつ病性障害や気分変調性障害とも言われる「うつ病」。
この場合の「大」は重症という意味ではなく、憂うつ症状がたくさん出ているという意味を持ちます。

具体的には、興味や関心など外に向けられる意欲が薄れ、抑うつな気分が続いたり楽しさを感じられないといったことが起こります。

悲しみや絶望感が長期間続き、日常生活での喜びや興味を感じられなくなることが特徴です。
具体的な症状としては以下のようなものがあります。

具体的な症状
  1. 抑うつ気分(ほとんど一日続く)
  2. 興味または喜びの著しい喪失(ほとんど一日続く)
  3. 体重あるいは食欲の変化
  4. 睡眠障害(不眠もしくは過眠)
  5. 無価値感あるいは自責感
  6. 自殺念慮(反復して起こる)あるいは自殺企図ないし明確な自殺計画
  7. 疲労感あるいは気力の減退
  8. 思考力や集中力の減退あるいは決断困難
  9. 精神運動性の焦燥(イライラ落ち着かない)もしくは抑制(動きが少ない)

特に1と2いずれかは必ず存在したうえで、他の症状と合わせて5つ以上該当し、かつその症状が2週間以上に渡ってほぼ毎日続きます。

躁うつ病

躁うつ病は「双極性障害」とも言われます。

躁状態では興奮や異常な高揚感が続いたり、エネルギーが非常に高まり行動にも変化が見られます。

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抑うつ神経症

抑うつ神経症は、気分変調性とも言われます。

2週間以上の期間、抑うつ気分のある日が多くありますが、抑うつ気分が大うつ病までいたらない症状を指します。

気分障害の原因

気分障害の原因は様々な要素が関与しています。
例えば、遺伝と環境の影響が挙げられます。

遺伝と環境の影響

気分障害は遺伝的な要素が関与していると考えられています。
遺伝による影響は、脳内の神経伝達物質の調節や脳の構造に関係します。

原因遺伝子そのものを特定する研究も進んでいます。
それによると、

  • うつ病は2番染色体
  • 双極性障害は18番と22番染色体

と関連があるのでは、というところまで迫っていますが、染色体の具体的にどこなのかまでは判明していないようです。
また、それとは別にセロトニントランポーター遺伝子に変異があるとうつ病リスクが大幅に増えることが示されています。

引用元:大曽根駅前こころのクリニック

さらに、環境の要素も気分障害の発症に影響を与えるとされています。

生活環境の変化やストレスの増加などが気分障害の発症や再発を促す可能性があります。
例えば、職場でのストレスや人間関係の問題、家族や友人とのトラブル、経済的な問題などが原因で気分障害が発症することがあります。

遺伝的な要素と環境の要素は相互に影響し合っていると考えられており、両方の要素が組み合わさることで気分障害が発症する可能性が高まるとされています。

気分障害の診断と治療

気分障害の診断は、専門の医療機関で行われます。気分障害の診断には、特定の基準や診断手段が存在します。

診断基準と診断手段

気分障害の診断には、DSM-5(精神障害の診断基準マニュアル)やICD-10(国際疾病分類第10版)に示された基準が使用されます。

これらの基準には、うつ状態や躁状態に関連する症状や期間、他の疾患との関連性などが指定されています。
また、診断には患者の症状を詳しく尋ねるための面接や、症状の評価に用いられる尺度なども使用されます。

治療やケアの方法

気分障害の治療には、薬物療法や心理療法が一般的に用いられます。

うつ病の治療では、抗うつ薬や気分安定薬が使用されることがあります。
抗不安薬などは服用すると効果を実感できることも多いのですが、長期間大量に服用し続けることへの体の影響も心配されています。

これらの薬物には副作用があるため、医師の指導のもとで適切に使用する必要があります。

心理療法では、認知行動療法や対人関係療法などが行われます。

認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy)はCBTとも呼ばれ、ストレスなどで固まって狭くなってしまった考えや行動を、ご自身の力で柔らかくときほぐし、自由に考えたり行動したりするのをお手伝いする心理療法です。
もともとはアメリカのAaron T Beckという人が、うつ病に対する精神療法として開発したものですが、うつ病以外にも、不安症や強迫症など多岐にわたる疾患に治療効果と再発予防効果があると言われています。
また、現在では、精神科の治療としてだけではなく、法律、教育、ビジネス、スポーツなど、あらゆる領域で認知行動療法の考え方が取り入れられているようです。

引用元:そもそも認知行動療法(CBT)ってなに?

対人関係療法では、非機能的な自動思考や行動パターンは単に病気の症状として位置づけ、「対人関係と感情・症状は相互作用しており、対人関係に対処することで症状の改善を目指す」ために、悲哀、不和、変化、欠如という対人関係問題領域に焦点化して取り組んでいきます。

引用元:対人関係療法

これらの療法は患者の思考や行動のパターンを変えることで、症状の緩和や再発予防を目指します。

また、それ以外にも生活習慣の改善やストレス管理なども重要な要素となります。

気分障害のケアでは、周囲とのコミュニケーションや支援が重要です。

家族や友人のサポートや、専門のケアチームとの連携、職場での理解。
診断名だけで判断するのではなく、個人の特性や必要な配慮などの情報共有を行うと支援者も協力しやすくなります。

気分障害と診断され、再び働くことに対する不安を抱く方も多く、無理をすると復帰後に症状が再び悪化するといったケースも少なくありません。

治療の進捗など定期的に評価し、必要に応じて治療計画の見直しや調整を行っていきましょう。

気分障害と日常生活

気分障害は心の健康問題であり、その症状が日常生活に深い影響を与えることがあります。
気分障害に苦しむ人々は、仕事や学校、家庭生活などの様々な場面で問題を抱えています。

日常生活への影響

気分障害の症状は人によって異なりますが、うつ状態では抑うつ感や興味の喪失、意欲の低下などが見られます。
これにより、仕事や学業のパフォーマンスが低下し、日常的な活動に参加することが難しくなることがあります。

人間関係にも大きな影響が出ることがあり、うつ状態では人との交流が避けられ、孤立感や寂しさを感じることがあります。

日常生活での対処方法

気分障害は日常生活に支障をきたす病気ですが、適切な対処方法を実践することで症状を和らげることができます。

まずは自己管理が重要となります。
定期的な睡眠や食事、運動を心がけることで、体調を整えることができます。

また、ストレスをうまく処理するためにリラックス法やストレス発散の方法を取り入れることも有効です。

次に、支援を受けることです。
専門の医療機関やカウンセリングを受けることで、症状の改善や対処方法のアドバイスを受けることができます。


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家族や友人にも理解を求め、サポートを受けることも大切です。
症状が重く、日常生活に支障をきたす場合は、医師とも相談しながら適切な治療方法を検討していきましょう。

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