双極性障害は、気分が高まったり落ち込んだり、躁状態とうつ状態を繰り返す脳の病気です。
日本では重症・軽症の双極性障害を合わせるとおよそ2%程度の患者さんがいると言われています。
統合失調症と並び、二大精神疾患の一つとされてきました。
この記事では双極性障害について理解を進めるために、その特性やケアについて解説していきます。
双極性障害とは何か
双極性障害とは、「躁状態」と「うつ状態」のエピソードが反復するもので、気分の波動が非常に大きな精神疾患の一つです。
以前は「躁うつ病」と呼ばれていましたが、二つの極端な状態をいったりきたりするという特徴があるため「双極性障害」と呼ばれます。
双極性障害とうつ病は両者とも気分の障害を引き起こす疾患ですが、その症状や特徴にはいくつかの違いがあります。
まず、双極性障害は躁状態とうつ状態を繰り返す病気であり、その周期が個人によって異なります。
一方で、うつ病は持続的な抑うつ感と関連する症状が続く傾向があります。
双極性障害の躁状態は興奮状態を伴い、過剰な自信や無謀な行動、社会的な信用を失うことなどが見られます。これに対して、うつ病では自己評価の低下や自己否定感、疲労感、無気力感などが主な症状として現れます。
また、双極性障害では躁状態とうつ状態が交互に現れることが特徴的ですが、うつ病では基本的に抑うつ状態が継続し、躁状態は見られません。
双極性障害では、普通の心の状態、つまり「躁」や「うつ」の間にある一時的な安定期が存在することもあります。
また、軽躁状態は「調子が良い」「回復した」と認識されやすく、見逃されることが少なくありません。
うつ病だと思っていたら調子が良くなり活発になってきた、というときには双極性障害の可能性も高いのです。
双極性障害の定義と特徴
双極性障害の主な特徴は、極端な気分の変動が一定時間以上続くことです。
軽い躁状態が数日間、躁状態が1週間以上。
うつ状態は2週間以上続きます。
一般的には、躁状態よりもうつ状態のほうが長く続く傾向があります。
躁状態では極度の活力やエネルギー、過度の自信や行動力、睡眠要求の低下。そして時には躁狂的な行動を示します。
例えば、眠らずに活発に活動し続けたり、浪費やギャンブルなどで散財したり、現実離れした行動を取るといったことが起こります。
抑うつ状態では、逆に無力感や希望喪失感、自己否定感、無気力など、一般的なうつ病の症状を呈することがあります。
例えば、何をしても楽しくない、興味がわかない、自分に価値がないと感じたり思考力が落ちると言ったことが起こります。
気分の変動が自覚できなかったり、気分の変動に合わせて仕事や人間関係が上手くいかなかったりしてトラブルになるケースも少なくありません。
双極性障害の種類と特性
双極性障害には、主に双極性障害I型と双極性障害II型の二つのタイプがあります。
I型の特徴は、激しい躁状態があることです。
うつ状態がなくても双極性Ⅰ型と診断されます。
一方、双極性障害II型では軽躁状態とうつ状態が起こります。
どちらのタイプも、躁状態には気分の高ぶりがあり、人間関係でトラブルを起こしやすくなります。
社会的信用や財産などを失い患者には社会生活や職業生活を送る上で大きな障害をもたらし、その人の人生に重大な影響を及ぼすことがあります。
Ⅱ型だから軽いというわけではなく、軽い躁状態が現れるためコントロールしにくく、再発しやすいとも言われています。
双極性障害の原因と要因
双極性障害の原因は一つではありません。
遺伝的要素、脳機能や脳構造の変化、ホルモンの異常、環境要素など、さまざまな要素が組み合わさって発症すると考えられています。
例えば、親や兄弟や親戚などが双極性障害の場合、ストレスに対する敏感さなど遺伝的な側面もみられるとされています。
また、体内で作られるセロトニンなどの精神伝達物質が正常に調節されていなかったり、ストレスなどの負荷がかかった後に発症することもありますが、因果関係は証明されていません。
ストレスが原因となるような心の病気ではなく、精神疾患の中でも身体的な側面が強い病気とされています。
双極性障害の症状と診断
双極性障害は、一般的に躁状態とうつ状態の2つの極端な状態を繰り返す心の病気と認識されています。
症状がある時期をエピソードといい、ほとんどない時期を寛解期と呼びます。
生涯に数回しかエピソードが見られなかったり、年4回以上のエピソードが見られたりと人により大きくばらつきがあります。
双極性障害の主な症状
エピソードの始まりから次のエピソードの始まりまでの期間(サイクル)では、躁状態とうつ状態が交互に入れ替わりますが、たいていはどちらか一方が長く続きます。
これらの症状は一人一人異なるため、注意深く観察する必要があります。
また、これらの状態が混在する「混合状態」も認められることがあります。
うつ状態(うつ)の症状
うつ状態では、無気力、食欲不振、睡眠障害、対人関係の避け方など、抑うつ症に似た症状が現れます。
日常に対する興味や嗜好なども失われ、絶望感や罪悪感などを強く感じることもあります。
毎日続く鬱陶しい気分「抑うつ気分」と、「興味・喜びの喪失」の2つのうち、少なくとも1つ症状があることが診断に必要とされています。
これら2つの必須症状を含めて、早朝覚醒、食欲の減退または亢進(および体重の減少または増加)、疲れやすい、動作がゆっくりになってしまう、自責感、集中できない、自殺念慮といったさまざまなうつ状態の症状のうち、5つ以上が2週間以上毎日出ている状態が、うつ状態です。
引用元:双極性障害とは
双極性障害におけるうつ状態は、一般的なうつ病よりも幻覚や妄想などがよく見られます。
社会生活への興味喪失や人間関係の困難も見られ、仕事や学校への出席や生産性の低下、自己尊重の低下などが生じることもあります。
躁状態(躁)の症状
一方、躁状態では、過剰な興奮、楽観主義、過度の活動、無計画な行動などが主な症状となります。
うつ状態より短く、1週間程度で終わってしまうことが多いのも特徴です。
気分が高揚して怒りっぽくなったり、自信過剰になってほとんど眠らなくなったり、統合失調症にも似た精神症状が現れたりもします。
誇大妄想を抱いたり、極端な躁状態になると狂乱状態に陥ったりして日常生活に支障が出たりします。
躁状態では、極度の興奮状態になることもあり、社会的な信用や財産、職を失うこともあるので注意が必要です。
双極Ⅱ型障害の軽躁状態ではそこまでの症状は現れませんが、元気がよく心身ともに活発になるため「完治した」と認識して服薬を止めたり通院を止めたりと治療を中断してしまうこともあります。
双極性障害の診断方法
双極性障害の診断は専門家による経験と知識が求められます。
具体的な症状のリストがあり、その基準に基づいて診断が下されます。
先程挙げたように、躁または軽躁状態では受診の必要がないと思い込み、医師へ申告しないことがあるので、本人だけでなく家族からの情報も必要になってきます。
また、現在服薬中の薬の有無、他の病気の症状なども合わせて確認していきます。
双極性障害の見分け方
双極性障害を見分けるためには、まずその人の気分の極端な変動や行動パターンを慎重に観察する必要あります。
ここで注意したいのは、単にハイな状態や落ち込んだ状態があるからといって、その人が双極性障害であると一概に断定してはならないということです。
双極性障害の診断は専門医の分析と評価に基づくものであり、自己診断や他人の素人判断では代替できません。
疑わしいと感じた場合は、専門家に相談し、適切な診断を受けましょう。
双極性障害の治療とケア
双極性障害は、躁と鬱の症状が交互に訪れることを特徴とする精神疾患です。
症状の形状や病態が異なるため、一人ひとりに合った治療が必要となります。
双極性障害の治療法
双極性障害の治療方法には大きく分けて、薬物治療と心理社会的治療があります。
まず、薬物治療とは主に気分安定薬を用いる方法です。
この薬は、極端な気分の上下を抑制し、患者が日常生活を落ち着いて過ごせるようにする役割があります。
双極性障害のうつ状態に対して使う薬は、うつ病の時に使う薬とは異なります。
双極性障害治療の基本となります。
神経伝達物質(ドーパミンなど)を遮断し、統合失調症の治療などにも用いられます。内服薬の他に注射などもあります。
薬物療法に加えて、カウンセリングや認知行動療法などが治療を進める上で役立ちます。
双極性障害について本人が自覚し、受け入れ自らコントロールしていくことを援助する心理社会的治療も行われます。
また、薬物療法に反応しない場合の治療法の一つに磁気刺激による電気けいれん療法もあります。
磁気を用いて脳をピンポイントで電気刺激する「TMS治療」と、頭部に直接電気刺激することにより一時的に脳にけいれんを誘発する「電気けいれん療法」。どちらも、うつ病への有効性が認められている治療法です。
引用元:「TMS治療」と「電気けいれん療法」の違いとは?各治療法の特徴も解説
自傷行為や他害、依存症などがあったり重度のうつ状態あるいは躁状態では入院が必要になることもありますが、大抵は外来での治療となります。
特に仕事においては、ストレスが蓄積しやすい環境に注意が必要です。
柔軟な勤務時間や職場環境の調整、メンタルヘルス支援の活用などが有効です。
仕事のストレスを軽減することで、双極性障害の症状の改善につながることがあります。
治療を受けるべき時期
双極性障害は、症状が明示的になる前に治療を開始することで、悪化を遅らせることも可能です。
躁状態では本人には自覚もなく、周りからも「良くなった」と認識されやすいため治療をうけないことがありますが、うつ状態になってから病院へ行くと回復までに時間がかかってしまいます。
躁症状や鬱症状が強くなる前、また家族や友人から「普段と違う振る舞いが見られる」「気分の変動が激しい」といった指摘があった場合は、専門医による診察を受けることをお勧めします。